読断片日記

仕事柄、1冊丸ごとより断片をよく読むので、その中で印象に残ったもののメモ代わり。

【読断片】弓削尚子『啓蒙の世紀と文明観』

【断片の要約】

 哲学者カントが人類学・人間学(アンソロポロジー)の講義を続け「人種」という概念の定義を確立させた一人であることからもわかるように、18世紀は「人種」を「科学的」に解明しようとした時代であった。だがそこには優劣の観念が持ち込まれ、白人ヨーロッパの優越性を示す根拠として利用され、奴隷制度や植民地政策の正当化に利用されることとなった。また解剖学の発達などによって「人種」と同様に「性差」も相対的なものから絶対的なものへと認識を変容させていき、女性の骨盤を広く頭蓋骨を小さく描く、女性の身体的特徴に関して「小さい」「弱い」などの形容を多用する、などによって男女の性格のステレオタイプ化を進めた。ここでも「科学」が白人ヨーロッパ男性の優越性を示すために用いられ、女性や他の民族を「他者」として自由や平等の枠組みからはじき出す論拠として提供された。

 

【感想】

 人種差別やフェミニズムというコンテンポラリーな問題を、歴史をさかのぼることによって相対化する非常に重要な試みだが、実はこの本の発行は2004年だという。
 今、当たり前とされていること(女性と男性は違う、など)を疑い、その「当たり前』が生まれた経緯をたどることは正しく世界を理解することにつながると思うが、それが「科学的」根拠だった場合、当時の科学が正しいのかどうかというところから疑わねばならないのだと痛感。

【一冊読んでみたい度】

★★★★★ (即買いした)