読断片日記

仕事柄、1冊丸ごとより断片をよく読むので、その中で印象に残ったもののメモ代わり。

【読断片】川崎賢子「成熟した読者のための吉屋信子」(吉屋信子『鬼火・底のぬけた柄杓』解説)

【断片の要約】

 読者自身が文芸上の既成観念から解放されないと、吉屋信子は理解できない。吉屋信子少女小説の中心読者層であった女学生たちは、異性愛性役割セクシュアリティの規範という現実に閉じ込められていたが、吉屋の小説はそれらの規範への強い違和感がおそらく無意識のうちに内包されていた。吉屋信子の仕事は既成の近代文学の枠組みを逸脱しており、小説というジャンルにも拘泥せず情熱的に俳句に関わったのもそのあらわれである。結果、硬直した俳句会とは相容れない強烈な個性の俳人たちを掘り起こした。

 

【感想】

 無学にして吉屋信子少女小説家としてしか知らず、少女小説自体も蝶よ花よと育てられた「お嬢様の夢」世界と思い込んでいた。猛省します。そして吉屋信子読みます。

 フェミニズムが今、再興の兆しを見せているように思うが、「少女雑誌を媒体として展開する幻想のネットワーク」とあるのは今のBLや同人活動に通じるものがある。そこに流れるのは「異性愛性役割セクシュアリティとにたいする、強い違和の意識」であることは吉屋信子の時代も今も変わらない。ということは、そこから何も進歩していないということでもあるのだ。

 

【一冊読んでみたい度】

★★★★★