読断片日記

仕事柄、1冊丸ごとより断片をよく読むので、その中で印象に残ったもののメモ代わり。

【読断片】湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』

【断片の要約】

 自分は大企業正社員の父、元小学教師の母を持ち、個室も与えられ塾にも私立エリート校にも行きたいと言えば行かせてもらえた。一浪の末東大に合格したが、それを恵まれた環境のおかげとは思わずすべて自分の努力の成果に帰していた。

 例えばうるさい弟妹が走り回る部屋で勉強しなければならない子は自分より高い集中力を必要としたろうし、浪人が許されない家の子もいただろう。自分の育った環境が「普通」であると思いがちである上に、自分自身は努力したという実感があるから、成功できない=努力が足りない、と自己責任論を振りかざす。だがそれは想像力の欠如だ。

 

【感想】

 個人的に筆者と同じ東大卒エリートの「恵まれたエリートならではの意見だが、本人はそのことに気がついていない状態」を目の当たりにした直後だったので、余計に筆者の自己客観視に拍手を送りたくなった。

 自己客観視は簡単なようで難しい。客観視の物差し自体が例えば「東大卒の中では」とか「高校の友人内では」とかいう非常にローカルで偏ったものである場合が多いからだ。受験をくぐり抜ける時点である程度均一化されていること、ましてや私立などは経済的にもふるいにかけられていることに気がついていない。筆者の言うように異なる環境にある他人への想像力が必要だ。

 ただし「異なる環境」に優劣をつけないという意識をもたないと、「貧乏育ちだから」と見下す、「恵まれた家のお坊ちゃんだからバカ」と別の偏見を持つ危険性もあるように思う。「違い」は「違い」でありそこに必ず優劣が存在するというものではない。

 

【1冊読んでみたい度】

★★★★☆